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2024.12.26

大規模修繕はいつがベスト?工事の周期と劣化の関係とは

大規模修繕工事をおこなう周期は12年でなくてはダメ?

マンションの大規模修繕をどのくらいの周期でおこなうべきか、建築物に関する知識がない人にはピンと来ないかもしれません。

インターネット上では、「12年から15年が平均的な周期」「必ずしも12年周期にする必要はない」「新築から10年経過したら外壁は修繕すべきだ」など、周期に関していくつかの考え方が紹介されています。

そこでここでは、マンションの大規模修繕について、なにを基準にして工事の周期を考えればいいのか解説していきます。

●マンション建物の劣化年数は場所によって異なる

マンションの大規模修繕工事を前提とした建物診断(劣化診断)を外部専門会社に依頼すると、どこがどれだけ劣化しているのかを診断してくれます。

ただ、どこがどれくらいの年数で劣化するのか、目安となる年数を把握しておくことが大事です。

建材や建築物の構造などによっても違いがありますし、海が近くにあるなどマンションの立地条件によっても大きな違いがありますが、だいたいの目安を場所ごとにまとめておきます。

外壁(塗装・タイル・コンクリートなど)

外壁の塗料によって耐用年数は異なりますが、外壁に修繕が必要かどうかを診断する目安は「10年」前後と言われています。

もちろんタイルの剥離やチョーキング現象(外壁を触ったときに手に白い粉がつく状態)、ひび割れなどが確認できた場合は、10年を待たずして外壁補修をする必要が出る場合もあります。

共用部分(エントランス・廊下・外階段など)

エントランスや廊下、階段などはマンション住民が頻繁に使う場所です。したがって10年程度が目安の外壁よりも先に、劣化が目立つようになる可能性があります。

マンション内部の美観や機能を維持するためにも、何年という目安ではなく床や階段、照明などに劣化や故障が認められた場合はすぐに対応するようにしましょう。

マンション屋上

マンションの屋上も大規模修繕のなかでも大規模で重要な修繕箇所になります。とくに防水機能については、風雨や紫外線などの影響で劣化が進んでいる可能性があります。

ウレタン防水・FRP防水・シート防水・アスファルト防水といった種類がありますが、耐用年数はだいたい10~15年くらいと考えてください。ただしアスファルト防水だけは、耐用年数が15~25年程度と長期にわたり防水機能が維持される場合があります。

屋上の防水層が劣化したまま放置すると、建物内部に水が入り込んで雨漏りが発生してしまうことになるので、大規模修繕のタイミングで防水層に亀裂やふくらみができている場合は、しっかり修繕工事をおこなうようにしてください。

エレベーター・照明などの電気設備

建材や建築物のエレベーターなどの電気系統も大規模修繕時の対応要素となりますが、とくに高経年マンションの場合は、最新の安全基準に適合していない場合があります。

エレベーターは定期的な点検をおこないながら、20年程度で主要部品の交換が必要となります。大規模修繕のタイミングにあわせてエレベーターの機能を更新するなどして、安全な運行が継続できるようにします。

配管設備(給排水管設備・ガス管設備など)

建材や建築物の修繕タイミングに必ずしも合致するとはいえませんが、給排水管やガス管なども経年劣化が避けられない場所です。

さびや腐食などで給排水管は劣化が進みやすいため、竣工から15~20年を目安に修繕や交換が必要になります。

●建築基準法の改正が大規模修繕の周期にも影響

マンションの大規模修繕工事の周期や時期は、建築基準法などで築何年後と定められているわけではありません。これまでは新築マンションの場合、第1回目の大規模修繕をおこなう目安は、「12年」とされてきました。

およその目安として「12年周期」とされているのは、平成20年(2008年)4月に一部改正された建築基準法で検査基準などが厳格化されたことと関係しています。

建築物の損傷や腐食などの劣化状況の点検などを実施する「定期報告制度」において、外壁の「全面打診調査」を新築もしくは改築してから10年経過したマンションは、モルタルやタイルに落下の危険がないかを3年以内に検査することが義務付けられました。

全面打診調査だけで大掛かりな足場を組むと無駄なコストがかかるため、築後12年を目安に調査や検査を含む大規模修繕工事をおこなうことが多い、というのが実情です。

ただ建築物の構造や劣化状態の違い、外壁素材の違いなどによって、早めに修繕が必要と診断される場合もありますし、特に目立った劣化が見られず築後15~18年で問題ないという場合もあります。

いずれにせよ専門家による建物診断に基づいて検討していく必要があります。

●長期修繕計画作成ガイドラインの見直しによる工事周期への影響

国土交通省が令和3年(2021年)に発表した資料『「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて』には、大規模修繕工事の周期についても変更が加えられました。

■主な見直しの内容
(前略)
②大規模修繕工事の修繕周期の目安について、工事事例等を踏まえ一定の幅を持たせた記載とする。
※ 現行のガイドラインの参考例:外壁の塗装塗替え:12年 → 12~15年、空調・換気設備の取換:15年 → 13~17年など
(後略)

※引用元:国土交通省報道発表資料「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて

改正された長期修繕計画作成ガイドラインでは、マンションの建築方法や設計上の多様性、建材や資材による劣化状況の違い、耐震強度の違いなども含め、大規模修繕工事の周期に一定の幅を持たせるという方向性が示されました。

●マンションの大規模修繕は12年周期にしばられる必要はない

長期修繕計画作成ガイドラインに示されているように、12年周期にこだわらず、検査結果に基づいて適切な周期で修繕を行うべき、という認識は共有すべきです。

たとえば外壁の材質や堅牢な耐震構造など高い機能を維持できているマンションであれば、15年周期かそれ以上でも問題ない、というケースもあり得ます。

ただ、その判断をするのはあくまでも専門家であり、調査や検査の結果次第、ということは変わりません。したがって修繕委員会や理事会などで現状に則した長期修繕計画が作成されているかを確認し、定期的な見直しをしていける体制づくりをしていくことこそが重要です。

●2025年にも建築基準法等の法令改正が施行される

じつは2025年に建築基準法と建築物省エネ法の改正がおこなわれ、4月施行が予定されています。マンションの大規模修繕に直結するものではありませんが、省エネ促進と木材利用を増やすことなどを目的に改正されるものです。

大規模な木造建築物の防火規定が緩和されたり、既存不適格建築物件に関して特定の条件をクリアすれば現行法の基準を適用しなくて済む免除規定が追加されたりします。

断熱性能など省エネ基準が強化されることで将来的な資産価値を上げ、光熱費などのコストもカットできるようになるというメリットもありますが、リフォームのための費用がかかるといったデメリットもあります。

大規模修繕よりは建て直しやリフォームといった建築の業界への影響が大きい法改正になりますので、修繕委員会や管理組合、理事会などでもあらかじめ専門家に話を聞いておくと安心です。

築年数が古いマンションの大規模修繕はどうなる?

新築マンションに関しては先ほどから説明してきたように、外壁の全面打診調査などの関係上、12年から15年周期で大規模修繕工事をおこなうケースが多いのですが、築年数が古いマンションの場合は同じ考え方でよいのでしょうか。

ここからは築年数の経過したマンションの工事周期について説明していきたいと思います。

●新築マンションと築年数が古いマンションとはどう違うのか

大前提として、新築マンションの大規模修繕と築年数が古いマンションの大規模修繕とでは、工事の周期について検討しなければいけない要素が異なります。とくに影響が大きいのが、「新耐震基準」と「旧耐震基準」の問題です。

建築基準法は改正が多い法令で、大きな地震などの災害が起こるたびに見直しと改正がおこなわれています。したがって長期修繕計画についても、法令の改正に合わせて見直していく必要があります。

人気エリアにあるデザイン性の高いマンションであっても、耐震基準を満たしていない建物では、安心して生活し続けることはできません。

ご自身のマンションが何年に竣工したマンションなのかによって、大規模修繕の工事内容も変わってくる可能性があります。

●1981年以前に竣工したマンションは新耐震基準への対応が必要

新耐震基準が制定されたのは、昭和56年(1981年)におこなわれた建築基準法改正時。この新耐震基準が制定された1981年5月31日以前に竣工したマンションは、旧耐震基準で建築されています。

したがってアップデートされた新耐震基準を満たすマンションにするための改築や修繕が必要になってきます。建築した時点で建築基準法に適合していたとしても、法改正で新しい基準が設けられた場合は、現行法に適合していないということになるからです。

このような建物のことを「既存不適格建築物」といいますが、大規模修繕や改修、リフォームなどをおこなうタイミングで現行法に適合するように修繕計画を見直していくようにします。

●都市型地震がきっかけで見直された耐震基準

1981年5月までの旧耐震基準で想定していたのは、「震度5」程度まででしたが、6月1日から施行された「新耐震基準」では、「震度6強~7」程度までの地震に対する規定が設けられています。

新耐震基準では震度6強から7程度の大規模地震があっても、倒壊や崩壊せず建物内にいる人の命を守れるような耐震性を基準としています。

耐震基準を見直すきっかけとなったのが、1978年に起きた宮城県沖地震。マグニチュード7.4、震度5の地震でしたが、住家の全半壊が4,385戸、一部損壊が86,010戸という甚大な被害が出ました。これが都市型地震が起こったときの典型としてとらえられ、法令の改正につながりました。

※参照元:仙台市ホームページ防災関連資料「1978年宮城県沖地震」

さらに1995年に起きた阪神淡路大震災を受けて、2000年に新耐震基準が改正されました。地震だけでなく、台風などの強風に耐えられる構造に関する規定なども盛り込まれています。

建築関連の法令は実際に起こった災害などに基づいて、数年単位で改正が繰り返されていきますので、つねに最新の情報を確認して長期修繕計画に反映していくようにしなければなりません。

耐震補強や免震補強、制震補強といった改修工事と大規模修繕工事を並行しておこなうのか、工期をずらしておこなうべきか、修繕積立金の不足分をどのようにして調達するのかなど、早め早めの検討が重要です。

なお国の方針としては、令和12年(2030年)までに共同住宅を含む住宅の耐震化を100%にする目標を掲げていますが、東京や神奈川などの首都圏の耐震化が高く、島根や佐賀などの耐震化率が若干低いといった地域差があるというのが実情です。

※参考資料
国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」【PDF】

築40年以上のマンションの約4割で大規模修繕に課題

現行法に適合していない建築物のことを「既存不適格物件」といいます。耐震診断で既存不適格と診断された場合は、現行法に適合させるために耐震改修工事の実施が義務付けられています。

●高経年マンションは修繕不足になっている可能性が高い

高経年マンションにおける修繕不足の問題については、国土交通省より下記のような資料が発表されています。

引用元:国土交通省(資料)「マンション政策の現状と課題」【PDF】

国土交通省がおこなった「平成30年度マンション総合調査」なので少し前のデータにはなりますが、大規模修繕工事の周期を12年程度と想定した場合、築40年以上のマンションでは約4割、築30年以上のマンションでは約2割が適切なタイミングで大規模修繕が実施できていない可能性がある、としています。

耐震化改修と外壁等の剥落や漏水などを改善する大規模修繕を適時適切におこなうためにはどうすべきか、コンサルタントなどの専門家の手を借りながら、長期修繕計画を立て直す必要があるかもしれません。

先述したように新築マンションの大規模修繕については12年周期にこだわる必要はないと説明しましたが、これまで適切な大規模修繕工事ができていない高経年マンションは、ただちに専門家による建物診断を受ける必要があります。




今回は、大規模修繕工事の周期について解説してきました。

これからもみなさまのお役に立てるよう、大規模修繕やマンション管理に関連する専門知識などを解説しながら、マンションの長寿命化につながる大規模修繕や改修、模様替えなどの重要性などをわかりやすいコラムでお届けしてまいります。

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