大規模修繕工事の準備でもっとも重要な「居住者への配慮」とは
大規模修繕工事をスムーズに進める7つの準備と配慮
大規模修繕工事は区分所有者である居住者が快適に、安全に生活をしていくために必要な工事であり、マンションの資産価値を維持するためにも重要な工事です。
管理組合や理事会にとっては、施工会社やコンサルタントなどの専門家とタッグを組んで、スムーズに工事を進めたいところです。ただし、居住者全員が同じように考えているとは限りません。
そこで重要になってくるのが、居住者にどれだけ寄り添い、配慮をしながら工事を進めていくことができるかという点です。
居住者と直接接するのは施工会社ですが、その間に入って円滑に工事が進むように仲介するのは、管理組合や理事会です。大規模修繕工事の主体は「管理組合」であり、施工会社ではないということを認識することが大切です。
たとえ外部の管理会社に運用を任せているとしても、マンション管理組合や理事会、修繕委員会が主体的に動かなければ、大規模修繕工事がスムーズに進まない可能性があります。
そこでここでは、居住者に対してどのような準備と配慮をすれば大規模修繕工事を円滑に進められるのか、7つのテーマをピックアップして説明していきます。
●【準備1】日常生活の制限に関する配慮
大規模修繕工事をすることになれば、大なり小なりマンション居住者の日常生活に制限が生じます。工事を安全かつ円滑に進めるためには致し方のないことですが、管理組合や理事会、修繕委員会などが事前に周到に準備を進めておけば、制限に対する居住者理解が得られやすくなります。
たとえば工事の足場を組むために駐車場が使えなくなったり、エレベーターが一定期間使えなくなったり、共用外廊下などに通行規制が入ったりと、なにかと日常生活上の制限が生じますが、ポスターを貼ったり、チラシやパンフレットなどを配布したり、説明会を開催したりすることで、繰り返し居住者への協力を要請していくようにします。
さらに工事期間中の駐車場や駐輪場を近くで確保する、塗装の薬液で汚れないようにカバーをかける、といった居住者目線の対応を心がけるよう施工会社に依頼し、管理組合員も協力していくようにするとよいでしょう。
大規模修繕工事によって生じる日常生活の制限は事前に予見できるものがほとんどですので、マンション居住者に正しい情報が「伝わる」まで、根気強く発信していくことが重要です。運営側が伝えたと思っても、居住者側に「伝わっていない」ということはよくあることです。「伝えた」と「伝わった」は違うので、注意が必要です。
●【準備2】居住者に気持ちよく協力してもらうための配慮
バルコニーの防水工事や共用エントランスの工事だけでなく、外壁塗装などのために足場を組む際駐車場の利用制限などはとくにマンション住民の協力が得られないと、大規模修繕工事はスムーズに進みません。
たとえばバルコニーに防水工事をおこなう場合、エアコン室外機以外に置いてあるもの、植物や物置といった私物は工事期間中室内にしまってもらう必要があります。
ベランダやバルコニーに置かれている植木鉢や室外機などの片づけには時間がかかりますので、工事スケジュールをなるべく早く居住者にお知らせするほか、片づけ方のコツといった住民が共感しやすい例を挙げた情報発信も重要です。とにかく気持ちよく協力してもらうための配慮を怠らないことが重要です。
建造物の維持や機能改善のための修繕工事には、住民も協力しなければならないという法的な義務があるのですが、トップダウンで指示するのはお勧めできません。あくまで居住者の手間や生活の制限に対するねぎらいや思いやりの姿勢を前面に出し、工事をする側との相互理解を深める努力をするようにしてください。
居住者が知っておくべき正しい情報を発信し続けていくことも大切です。バルコニーは正確には「規約共用部分」とされており、居住者には「専用使用権」が割り当てられる立て付けになっている、といった正しい情報をあわせて発信していくとより配慮が行き届いた広報活動がおこなえるはずです。
●【準備3】居住者のプライバシーを守るための配慮
大規模修繕工事では多くの場合、作業のために足場が組まれます。作業員は足場を使って塗装などをすることになるため、部屋の中を見られてしまうのではないかと不安になる居住者もいらっしゃいます。
基本的には室内に入る事はありませんが、玄関ポーチやバルコニーなどに入って作業をしなければならないこともあるため、プライバシーを守りつつ作業を進めていくためには、事前に丁寧な協力要請と工事内容の詳細説明が欠かせません。
どの大規模修繕工事でも、工事スケジュールや工事内容、居住者への協力要請は根気強く繰り返しおこなう配慮が必要です。居住者が不安に思うことがないか、事前のヒアリングも実施するようにしましょう。
さらに施工会社関係者や施工業者に対しても、住民のプライバシーには十分配慮するようおねがいし、窓や室内にシートなどで目隠しやカバーをするなどして、居住者の不安を軽減させることができるような対応を依頼してみてください。
●【準備4】近隣住民のコンセンサスを得るための配慮
マンションの大規模修繕では、大掛かりな工事をすることになりますので、工事計画が決まった段階で、近隣住民にも周知する必要があります。マンション敷地内だけでなく、一時的に周辺道路の通行規制をおこなったり、大型車両が行き来したりするからです。
大規模修繕工事の内容を決める際には、想定しうる騒音や振動、塗装工事や防水工事の過程で生じる臭いの問題なども検討材料に入れ、マンション居住者や周辺住民により影響の出にくい工事方法を選択する、という配慮も大切です。
土日祭日は大きな音や振動が起こる工事を控えるなど十分に近隣住民に配慮しながら、居住者だけでなく近隣住民のコンセンサスが得られるような対応を心がけていきましょう。
仕事でなかなか説明会に参加できないという近隣住民には、オンライン説明会や動画配信なども選択肢としてもっておくと、円滑にコミュニケーションが取れるようになると思います。
●【準備5】修繕委員会や管理組合と居住者の相互理解を深める配慮
大規模修繕工事に際し、マンションの住民や専門家など有志のメンバーで発足される、修繕工事に特化した組織を「修繕委員会」といいます。マンション管理組合の理事会とは別の組織です。
基本的に大規模修繕に関する重要な決定には管理組合の総会での決議が必要なのですが、修繕委員会のメンバーと管理組合が連携して大規模修繕のプロジェクトを進めていくことが大前提となります。
専門家を入れた修繕委員会で修繕工事の内容などを検討して「これが最適な計画である」と結論をまとめたとしても、そこですべてが決まるわけではありません。理事会や管理組合と闊達な議論を交わして、相互理解を深める配慮と密な連携が重要です。
大規模修繕工事に関する決定権は理事会にありますので、混乱が生じないように明文化するなどしておくと安心です。
また理事会にしても、修繕委員会にしても、人数が多すぎると統制が効かなくなりますので、専門家に確認しながら適正な人数で理事長や委員長以下一致団結して、問題解決のために協力し合う体制を整えることが大切です。
●【準備6】空き巣被害など防犯上の配慮
大規模修繕工事の際に細心の注意が必要なのが、防犯上の対応策です。工事期間中は工事関係者や作業員など、マンション住民以外の不特定多数の人が出入りすることになります。
また外壁塗装などのために組む足場があるせいで、通常は侵入できない高層階でも、窓側から侵入して空き巣被害にあうケースもあります。
工事期間中は作業員であることがわかる目印となるもの(ベストやヘルメット、腕章など)をつけるなどして、侵入者を潜り込ませないようにする対策をおこない、防犯上の配慮を行います。
さらにマンション住民にも事前に注意喚起をおこない、窓の施錠などいつも以上に防犯の意識を高めてもらうようにしてください。
●【準備7】大規模修繕工事完了後の配慮
大規模修繕工事が完了した後におこなうのが「竣工検査」です。工事計画で予定していた修繕がしっかりおこなわれているか、施工不良がないか、汚れや雑な仕上げ箇所がないか、工事のために一時的に撤去したものが、元通りになっているか、破損などがないかといった確認をします。
この竣工検査に立ち会うメンバーは通常、理事会や修繕委員会のなかから数名を選ぶことが多いのですが、専門知識がある業者に立ち会ってもらう管理組合も増えています。大切なことは、高い費用をかけた大規模修繕工事に施工不良や整備不良がないか、抜けもれなく検査できる体制を整えておくこと。
さらに施工計画書やアフターメンテナンス計画などの竣工書類も受け取り、管理組合や理事会で書類を保管するだけでなく、次の大規模修繕工事への準備とバトンタッチがスムーズにおこなえるようにしておきます。
さらには大規模修繕工事が計画通りに無事完了したこと、修繕された内容などを報告し、工事期間中の協力に対する感謝の気持ちを居住者に伝える配慮も大切です。
工事後になにか問題が生じていないか、気づいた点がないかなど、任意でアンケートをとるなどして、次回の大規模修繕工事の参考になるようなデータを収集しておくとよいかもしれません。
大規模修繕工事が始まる前に準備しておくことが重要
どんなことでもリスクマネジメントをしておかないと、大変な事態になりかねません。「トラブルは起こるもの」という大前提のもと、できるだけトラブルを回避できる対策と準備をおこなうことが重要です。
●リスク回避のために準備すべきポイント
大規模修繕工事は多額の費用がかかるものなので、計画通り工事が完了して問題などが生じないようにするのが理想です。そのための事前準備として、以下のようなポイントをチェックしてみてください。
- 理事会や管理組合、修繕委員会などマンション側の組織をしっかり構成する
- すべては理事会で決定し、すみやかにマンション居住者のコンセンサスを得る
- 工事準備の段階からマンション居住者への事前告知を徹底する
- マンション居住者目線での告知や情報提供などを繰り返しおこなう
- 近隣住民への説明会やあいさつなどは余裕をもっておこなう
- アフターケアがしっかりしている業者を選ぶ
- 長期修繕計画については定期的に見直しをしていく体制を整える
どんなことでもリスクマネジメントは必要ですが、マンションの寿命を延ばすためにも、マンション居住者が安心して暮らしていくためにも、スムーズに大規模修繕がおこなえるように準備しておきたいものです。
今回は、大規模修繕工事の準備と配慮について解説してきました。あらかじめ準備しておけば、バタバタあわてることもありません。居住者や近隣住民への配慮につながる事前準備をしっかりおこなって、気持ちよく大規模修繕工事が実施できるようにしましょう。
これからもみなさまのお役に立てるよう、大規模修繕やマンション管理に関連する専門知識などを解説しながら、マンションの長寿命化につながる大規模修繕や改修、模様替えなどの重要性などをわかりやすいコラムでお届けしてまいります。