マンションの資産価値を守る大規模修繕のポイントとは?
マンションの資産価値を維持する方法
大規模修繕は資産価値に直接関係しないと思われがちですが、実際には大きく影響します。経年劣化が避けられないものは都度修繕を施して、マンションの資産価値が落ちないようにしなければなりません。
マンションの大規模修繕は12~15年に一度おこなわれる大掛かりな工事ですが、資産価値を維持し、向上させるための大規模修繕にはどのようなものがあるのか、整理してみましょう。
●マンションの美観維持で資産価値を上げる
新築マンションが人気なのは、間取りや設備だけでなく、マンションの美観が大きな魅力となっています。建物としての美しさや意匠性に惹かれてマンションを選ぶ人もいます。外壁や中庭、植栽、テラスなどの外観に加え、エントランスホールもマンションの美観を左右する要素です。
マンションを購入する人にとっても、借りる人にとっても、マンションの外観が悪いものは選びたくないものです。新築マンションは別として、ある程度築年数が経っているマンションの場合、外壁やエントランスなどの劣化は避けられません。劣化したまま放置すれば、当然のことながらマンションの資産価値は下がります。
大規模修繕の周期を待つだけではなく、外壁や内壁、エントランスホールなど外観に影響が出やすい場所は、定期点検を実施して破損や劣化が認められたらすぐに修繕するといった細やかな対応をしていくべきでしょう。
劣化を抑えることがすなわち資産価値の低下を防ぎ、美観を維持することにつながるのです。大規模修繕は、資産価値を上げるというよりも、下げないために重要な役割を果たします。
●マンションの耐久性を維持し、資産価値を守る
マンションを終の棲家とする人にとっても、投資目的で所有している人にとっても、「安心・安全に暮らせる」ということが大前提です。大規模修繕は安全性の担保に欠かせないものです。もともとの建設躯体の耐久性はもちろんですが、経年劣化が疑われる箇所を大規模修繕でしっかり修繕して耐震性を維持することが重要です。
外壁の亀裂や剥離などを放置しておくとその部分から浸水して劣化が進んでしまいますし、防水のためのシーリングやマンション屋上などの防水機能も維持しなければなりません。配管や電気系統の機能を維持するための修繕も不可欠です。
大規模修繕工事はあくまで「新築時の状態を維持するため」におこなう工事ですが、これとは別にマンションの「耐震性」についても検討が必要になる場合もあります。
1981年5月31日以前に確認申請された旧耐震基準のマンションの場合、大地震における建物強度の想定がなかったときに建築されています。建築基準法は大きな地震などの災害を受けた後改正されることが多く、1981年6月1日に施行された新耐震基準は1987年に起きた宮城県沖地震を受けて改正されたものです。
新耐震基準では「大地震でも倒壊しない程度の強度」を基準としていますので、1981年よりも前に建築された築年数の古いマンションの大規模修繕の計画を見直す際は、耐震性の検査やマンション改築の検討などが併せて必要となる場合もあります。
修繕委員会や理事会だけでは判断が難しいため、早めに建築会社やコンサルタントなどの専門家に相談することをおすすめします。
●マンションの資産価値を上げる設備と機能
近年の新築マンションはユニバーサルデザインや共有設備の充実など、暮らしやすさや安全性、多様性を重視したコンセプトを売りにしている物件が増えてきています。もちろんマンション外観のデザインや立地条件を優先して選ぶ人もいますが、マンションに備わっている設備や機能性が資産価値に大きく寄与していることは間違いありません。
大規模修繕工事には改修工事が含まれませんが、資産価値を上げる目的でマンションの出入り口に車いすやベビーカーでも利用しやすいようにスロープを付けたり、宅配ボックスなどの共用設備を設置したりすることはできます。
マンションの資産価値を上げる設備や機能には以下のような例が挙げられます。
- 宅配ボックス
- EV車用充電設備
- レンタカーやレンタル自転車など
- 共用ラウンジ
- 蓄電システムなど省エネインフラの導入
- バリアフリー化
- 防犯性能の強化
- キッズ用のスペース
- ドッグランや犬用足洗い場など(ペット関連設備)
あとから設備を追加したくてもできない場合もありますが、マンションの資産価値を上げることを考えるのであれば、「どうすれば実現可能か」を話し合う価値はあります。
この場合も専門家に相談して、実際にその設備や機能の実装が可能か検討してもらい、改修計画を立てます。修繕委員会や管理組合などで十分に議論し、区分所有者の賛同を得られるように進めていきましょう。
●マンションの資産価値が下がる原因
資産価値を維持・向上させるためのポイントを押さえておくことが重要です。反対に、大規模修繕や定期メンテナンスを怠ると、マンションの資産価値を下げる原因になってしまいます。
エントランスホールやエレベーター、外階段なども、定期的に検査・修繕し、新築時の機能や美観を維持することが大切です。
そして何より資産価値が下がる原因となるのが、「マンションの管理や運営が適切におこなわれていない」ことです。いまではマンションのデザイン性のトレンドや省エネインフラ、共用設備の充実以上に重要視される傾向にあるのが、マンションの管理体制や運営組織がどれだけしっかりしているか、という点。
マンション管理会社にすべてを委託するケースも少なくありませんが、区分所有者が自分事としてマンションの管理や運営をとらえ、資産価値が下がらないような対策を講じることがいかに重要であるか、という認識を持つ人が増えてきているのです。
管理組合・オーナーの皆様へ:当社のマンション管理体制のポイント
そもそもマンションの資産価値とはなにか
マンション管理やマンションの修繕、改修からは少し離れますが、ここで改めて「マンションの資産価値」について掘り下げてみたいと思います。
マンションの資産価値とは、マンション(建物と土地)が市場で持つ価値、評価額のことを指します。資産価値が高いマンションには、同じような広さや間取りでも高い値段がつきます。そのマンションを売りに出したときにどれだけ高い値段で売れるのか、というのが資産価値です。
資産価値はマンション外観の意匠性や建物の性能、立地条件や周辺環境、市場動向や経済状況などによる変動が起こることもあります。人気の路線や駅近くにあるマンションは、当然資産価値が高くなります。
資産価値には「売却価値」と「収益価値」という2つの指標があります。
●マンションの「売却価値」とは?
まず「売却価値」とは、区分所有しているマンションがどれくらいの価格で売れるのか、という資産価値のことを指します。物件として評価されればされるほど、高い価格で売却することができます。
最近は投資目的でマンションを購入する人が増えていますので、そのような人やマンションを投資目的で所有している人、住み替えを前提にマンションを購入している人などにとって、この売却価値は重要な要素となります。
ただし永住を目的としている人にとっては、売却価値を重要視してマンションを選ぶことはあまりありません。近年では、終の棲家としてマンションを選ぶ人が増えており、区分所有者の永住意識が高くなる傾向にあることが国土交通省の調査によってわかっています。
引用元:国土交通省「国土交通省マンション長寿命化・再生円滑化について/区分所有者の永住意識グラフ:令和7年1月時点」
(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001708225.pdf)
この調査データ自体は平成30年度(2018年)のものですが、ここ数年「永住するつもりである」という区分所有者は右肩上がりとなっており、62.8%という数字は過去最高の高さとなっています。
永住意識が高いということは、大規模修繕を経験する区分所有者が多いということにもつながります。したがってマンションの修繕や改修に関して、ますます区分所有者の理解と協力が得られるような運用体制が重要になっていくということです。
●マンションの「収益価値」とは?
いっぽうで「収益価値」とは、マンションを賃貸物件として貸し出しする際にその物件がどれくらいの収益を上げられるか、という資産価値のことを指します。
はじめから投資物件としてマンションを購入する人も増えており、収益価値がどれくらい見込めるのかという点を重視する人もいます。賃貸マンションより分譲マンションのほうが収益価値は高い傾向にあります。
投資目的の場合は、マンションの資産価値が下がらないようにしていかなければならないので、建物のメンテナンスや大規模修繕の計画、管理体制などが整っているかどうかも判断材料になります。
通常の収益価値は、マンションの購入費用や保険料などの必要経費を家賃収入から差し引いた金額で計算します。さらに修繕積立金や定期的なメンテナンスなどの工事費も必要経費として想定したうえで、マンションの家賃収入がいくらになるのかを考える必要があります。
●築40年以上のマンション数が約10年後には2倍以上に
国土交通省が公開している調査データによれば、築40年以上のマンションストック(中古物件)数は右肩上がりに増加。2022年末に125.7万戸でしたが、2023年末には2倍以上の260.8万戸、2042年末には445万戸と3.5倍以上にものぼるといいます。
引用元:国土交通省「国土交通省マンション長寿命化・再生円滑化について/築40年以上のマンションストック数の推移」※国土交通省の資料より一部抜粋して使用
(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001708225.pdf)
資産価値は、立地条件や市場の動向だけでなく、建物の管理状態や居住環境、外観の美しさなど多くの要因によって決まります。適切な管理が行われているマンションは、資産価値が高く保たれ、逆に管理が行き届いていないマンションでは資産価値が低下する可能性が高くなります。
高経年のマンションにはさまざまな劣化が生じます。大規模修繕だけでなく、定期的に適切なメンテナンスをしていかなければ、マンションの資産価値を維持することは難しく、売却価値も収益価値も下がってしまいます。
大規模修繕が「長寿命化」という資産価値を生む
国も高経年マンションのストック増加を問題視し、「マンション長寿命化促進税制」(令和7年現在制度の延長申請中)や「マンションストック長寿命化等モデル事業」などで支援するなどの取り組みを展開しています。
国や自治体が税制の優遇や補助金、助成金による支援で、円滑なマンション修繕および再生などによるマンションの長寿命化を促進しています。
国土交通省の資料によれば、マンションを巡る「2つの老い」が今後深刻化すると予測されています。築40年以上のマンションが20年後には約3.4倍にも膨れ上がり、世帯主の5割以上が70歳以上になると推測されています。
引用元:一般社団法人マンション再生協会「マンションを巡る現状、長寿命化の促進に向けて」※国土交通省の資料より一部抜粋して使用
(https://www.manshon.jp/manshon-l-life/20241025/pdf/20241025_0.pdf)
マンションの高経年化、区分所有者の高齢化により管理組合役員の担い手に困ったり、修繕積立金の不足に陥ったりして、マンションの管理が立ち行かなくなり、大規模修繕や改修、再生が困難になっていく可能性があります。
仮に高経年のマンションであっても、住環境がよく人気の沿線にあるなど資産価値が下がりにくい要因があるのであれば、マンションの長寿命化を図るための対策をいまのうちから立てておくことが得策です。
大規模修繕工事や改修工事をしっかりおこなうことでマンションの長寿命化を図ることが、資産価値を生み出すことにつながるのです。
●「マンションの資産価値は住民がつくる」という事実
これまではマンションは管理する、資産価値を守るといった考え方が主流でしたが、先進的な考え方を採用するマンションでは、「マンションを経営する」という視座でマンション管理や運営をおこなうようになってきているといいます。
「資産価値を下げない」という保守的な考え方から、住民みずからが能動的に「マンションの資産価値をつくっていく」時代へと移行しつつあります。
マンションのデザインや設備の豪華さ、立地条件の良さなどが資産価値に影響を与えることは変わりませんが、今後はマンションをどのようにして管理運営していくかという点を重要視する人が増えていくともいわれています。
いまの管理体制で十分なのか、修繕計画はいまのままで問題がないか、いま一度確認してみるとよいのではないかと思います。
今回は、大規模修繕とマンションの資産価値との関係性などについて解説してきました。大規模修繕が適正に実施できるかどうかは、適正な管理運営にかかっていると言っても過言ではありません。管理組合や理事会、修繕委員会などが密に連携をとって、マンションの資産価値を維持できるようにしていきましょう。
「大規模修繕を検討している」「資産価値を下げたくない」という方は、下記よりお気軽にご相談ください。