防水工事はマンションの寿命を決める重要な工事
大規模修繕におけるマンションの防水工事とは?
マンションの大規模修繕では外壁塗装などと並んで重要なのが、防水工事です。建物に雨水などが染み込まないようにプロテクトする防水機能が働いていないと、マンションの寿命を短くしてしまうだけでなく、快適な居住環境が維持できなくなってしまいます。
大規模修繕ではマンションの屋上、外階段、バルコニー、開放廊下など直接雨などで濡れる床面に防水工事をおこないますが、大規模修繕における防水工事ではどのようなことをするのか、防水工法の種類や費用などについて説明していきます。
マンションの防水工事の種類
マンションの屋上などの防水工事には大きく分けて以下4つの工事方法があります。
- ウレタン防水
- シート防水
- アスファルト防水
- FRP防水
それぞれどのような場所の防水工事に向いているかなど、特徴を見ていきましょう。
ウレタン防水
ウレタン防水とは、液体状のウレタン樹脂を何度か重ねて塗って防水層をつくる防水工事のことを指します。屋上の防水工法として一般的な工法です。液体状のウレタン樹脂を塗膜していくので、少し入り組んだ形の屋上でも工事が可能です。
ウレタン防水には「密着工法」と「通気緩衝工法」という2つの工事方法があります。「密着工法」は床面に直接ウレタン樹脂液を塗布していく工法で、バルコニーや開放廊下など屋上に比べて面積の狭い場所に適した工法です。いっぽう「通気緩衝工法」は屋上などに用いられる工法で、通気緩衝シートを下地に貼り付けてから、ウレタン防水材を塗布していく工法です。
密着工法のほうが単価が安くなりますが、通気緩衝工法は耐久性が高く、水分を含んだ下地から外部に排出することができるため、大規模修繕など大掛かりに屋上などの防水工事を施工する際は、通気緩衝工法を選択することが多くなっています。
ウレタン防水のメリット
- 継ぎ目がなく全面に防水層を形成するため雨水が侵入しにくい
- 防水工事の費用がほかの工法よりも安い
- 特殊もしくは複雑な形状の屋上でも工事できる
ウレタン防水のデメリット
- ウレタン防水材を均一に塗布できるかどうか職人の技量により見た目や防水力の差が出る
- 完全に乾燥させるための期間が必要であるためほかの工法より工期が長くなる
- 雨や湿度など天候の影響を受けやすい
シート防水
シート防水は、防水機能のあるシートを活用して防水層をつくる工法です。防水シートには大きく分けるとゴム製と塩化ビニール製のタイプがあります。ゴム製シートは厚さが1.1~2ミリ程度、塩ビシートは1.5~2.5ミリ程度です。
シートの価格が安いゴム製のシートが使われることもありますが、耐久性などの面から塩ビシートの使用が一般的になってきています。
下地の状態や材質、施工する場所などによって接着剤で直接貼り付ける接着工法と、大きな機械を入れてビスなどで緩衝材に固定する機械的固定工法があります。
シート防水のメリット
- 耐久性が高く施工後のメンテナンスがほとんど必要ない
- 塗膜工法に比べて工期が短く、天候の影響を受けにくい
- いまある防水層の上にシートかぶせることもできるのでコストが削減できる
シート防水のデメリット
- 屋上の形が入り組んでいたり凹凸があったりする場合は施工できない
- 設置にドリルなどを使用するため振動や騒音が発生してしまう
- 接着剤の劣化による剥離が生じる可能性がある
アスファルト防水
アスファルト防水とは、合成繊維不織布でできたシートに液状にしたアスファルトを染み込ませてコーティングしたルーフィングシートという防水素材を二層以上に塗り重ねていく工法のこと。古くからビルやマンション屋上などのほか、大型商業施設でも活用されてきた工法です。
短時間で硬化する「熱工法」、熱を使わずに自着層(粘着層)でコンクリートに貼り付ける「常温工法(冷工法)」、アスファルトのルーフィングシートをトーチバーナーで溶着施工する「トーチ工法」の3つの工法があります。
アスファルト防水のいちばんの特徴は、耐用年数の長さ。ほかの工法が長くて15年程度であるのに対し、アスファルト防水は耐用年数が20年以上となっている点です。新築時にマンションの屋上にアスファルト防水が施されている場合は、基本的に同じ工法で防水工事をします。
アスファルト防水のメリット
- 耐用年数が20年以上の場合もあり、ほかの防水工法より耐久性に優れている
- 施工の歴史が長く防水性能の高さが実証されている
- 安定した防水層形成が可能で漏水防止に威力を発揮する
アスファルト防水のデメリット
- 工法によっては熱による臭いなど周辺への影響が出る可能性がある
- ほかの工法と比較すると工期が長くなる傾向がある
- 防水工事の費用がほかの工法よりも高い
FRP(繊維強化プラスチック)防水
FRP防水とは、上記に書いてあるように強化プラスチックにガラス繊維を混ぜた「繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)」を使った塗膜防水のこと。ほかの材質より軽くて強度があるのが特徴で、マンションの屋上やベランダ、バルコニーなどに使用されています。
プラスチック繊維と樹脂で硬化させると表面が硬くなる性質があるため、エアコンの室外機など重いものを置いても、人が上を歩いても耐久性に問題ありません。
FRP防水のメリット
- 耐久性に優れているため室外機やクルマなど重いものを置いても問題ない
- ほかの防水層より軽いため建物に負荷をかけない
- 耐熱性、耐食性、耐候性などに優れている
FRP防水のデメリット
- ウレタン防水と比較すると費用が少し高くなる
- 柔軟性が必要な場所には不向き
- 比較的伸び率が大きくないため施工する箇所や職人の技量を要する
防水工事が必要なマンションの場所
大規模修繕で防水工事をおこなう場所を確認します。
屋上・屋根
マンションの屋上や屋根(マンションの場合は陸屋根)は防水工事のなかでも、もっとも重要度の高い防水工事といえます。
近年ではおもに低層階マンションに太陽光パネルを設置するケースがありますが、太陽光パネルの設置用架台を屋根に固定する際に防水層を傷つけるなどして防水効果が損なわれてしまうといったトラブルが起こる可能性があります。
大規模修繕のタイミングで経年劣化や傷による防水層の破断がないかしっかり確認して、屋上や屋根の形状や材質に合った防水工事をおこなうことが大事です。この際、床面の欠けや亀裂、破損などがあれば、補修をしてから防水工事をおこないます。
ベランダ・バルコニー
マンションにベランダやバルコニーがある場合は、大規模修繕時に防水工事をやり直す必要があります。モルタルやコンクリートのベランダの場合は経年劣化によるひび割れが生じている場合がありますので、下地調整で補修した後に防水工事をおこないます。
またドレンの劣化や床面のひび割れが原因で漏水している場合、ベランダの底に雨染みができてしまっていることがあります。漏水の原因を明確にして補修工事をしてから、防水工事をおこないます。
外壁
厳密にはほかの防水工事のように特別な工事をするわけではありません。そもそも外壁の塗装には防水塗料を使用するため、塗装してからしばらくは防水機能が働いています。
したがって外壁の防水という意味では、外壁塗装が防水工事に該当します。ただし、外壁材にひびが入ったりタイルが剥がれていたりしている場合は、先に壁材の補修工事をしてから、サイディングの張替えやコーキングの打ち直しなどをして防水機能を取り戻すようにします。
外階段・開放廊下
外階段や開放廊下などの共用部分の防水工事も、大規模修繕のタイミングで実施します。防水機能だけでなく、居住者への負担が少なく、防滑性など安全性にも配慮した防水工事をおこなうようにします。
マンション屋上などの防水工事をおこなうタイミング
ここでは大規模修繕を前提に情報をまとめていますが、12~15年周期でおこなう大規模修繕で防水工事は中核となる工事でもあります。マンション内部に雨水などが染み込む前に防水工事をおこなうのが理想ですが、防水層の種類によっても耐用年数が異なります。
したがって屋上などを確認して防水層にひび割れや剥離、浮いている箇所、欠けているところがあるといった明らかな劣化状態が見つかった場合、単独で防水工事をするか、大規模修繕の工事着手を前倒しするかといった判断をする必要があります。
近年ゲリラ豪雨など短時間で激しい雨が降る場合があるため、屋上や開放廊下などの水はけが悪くなっていないか、雨漏りしていないか、定期的にチェックすることが大事です。
マンション防水工事の流れ
防水工事の流れは防水工事の種類によって若干の違いがありますが、大まかには以下のような流れで進めます。
- 屋上(屋根)、外階段、開放廊下などの劣化状態を調査
- 防水工事の種類や工法を決める
- 高圧洗浄や補修などの下地調整をおこなう
- 下地にプライマー(接着させる下地材)などを塗る
- 防水剤(主剤)を塗る
- トップコートを塗る
実際には、下地調査などを受けて工事内容の詳細が決まりますので、工事内容が決まり次第、工程表を確認するようにしましょう。天候不順などの影響で後期に遅延が生じることが少なくないため、逐次確認できる体制を整えておく必要があります。
大規模修繕のマンション防水工事で注意すべきこと
マンションの防水工事はかなり大掛かりな工事となるため、居住者にかかる負担に関する周知や周辺住民への通達など、いくつか注意すべきポイントがあります。
防水工事中の臭いや騒音
屋上の防水工事に関して工法によってはシンナー臭さなど悪臭が発生しやすいという特徴があります。機械を使った防水工事であれば、騒音で周辺住民に迷惑をかける可能性があります。
したがって居住者への丁寧な説明と、周辺住民への告知および協力依頼をしっかりおこなうようにします。これを怠ると、工事によるクレームなどのトラブルに発展しかねないので注意が必要です。
天候などによる工期の延長
外壁塗装同様、屋上の防水工事などは雨や台風など天候不順の影響を受けやすい工事です。天候不順は避けられないものですが、工期の延長によってどこにどう影響が出るかを考えなければなりません。
工期の延長によってほかの作業に影響が出ないかなど、管理組合がしっかり把握しておくことが大事です。
予定にはなかった工事の追加
下地調査の結果、当初予定になかった補修工事などが追加になる可能性があります。施工会社から工事の追加を打診されたときは、なぜその工事が必要なのか、どれくらいの費用がかかるのかなど、できれば口頭ではなく書面で確認するようにしましょう。
アフターケアなど保証内容の確認
防水工事を含め、大規模修繕工事が完了したあとのアフターケアや、工事の保証についても確認しておくようにしてください。
防水工事でなにか不具合が生じた場合、なるべく早くに補修してもらう必要がありますので、工事が始まる前に保証の項目をしっかり確認しておくと安心です。
今回は、大規模修繕における防水工事について解説してきました。
これからもみなさまのお役に立てるよう、大規模修繕やマンション管理に関連する専門知識などを解説しながら、マンションの長寿命化につながる大規模修繕や改修、模様替えなどの重要性などをわかりやすいコラムでお届けしてまいります。