マンション修繕と改修の違いは?適切な改修のタイミングとポイントを解説
マンションの修繕と改修はどこがどう違う?
大規模修繕は 12~15 年周期でおこなう大規模工事ですが、改修工事との大きな違いは「目的」にあります。
- 修繕:壊れた部分や機能低下した部分を直して元に戻す(=性能維持・回復)
- 改修:新たな性能や機能を付与してグレードアップする(=性能向上)
ここでは、それぞれの具体的な違いや改修工事のタイミングについて解説します。
●マンションの修繕とは
繕(つくろ)うという文字からわかるように、修繕とは「すでに痛んでいたり壊れたりしている部分を繕って直し、修める」ことを指します。工事や修理などでマンションの美観や機能をもとの状態に戻すことを目的に、修繕は行われます。
マンションの修繕箇所としてイメージしやすいのは、外壁などの壁に入った亀裂やタイルの破損、防水のシーリング部分の剥がれ、鉄骨のさびや漏水などが挙げられます。
外壁や外階段などはとくに風雨にさらされ、紫外線の影響を受けるため劣化が進みやすいことと、使用されている建材によって耐用年数が異なることも相まって、大規模修繕工事の平均的な周期である12~15年を待たずして、修繕が必要になるケースもあります。
修繕は外的要因による劣化や故障、不具合などが生じた建物や共用設備、外観を損なうような破損した場所の修理や建材などを取り替えるなどして、マンションや共用設備を問題なく使用できるところまで回復させて、もともとあった性能や機能を回復させるためにおこなうものです。
大規模修繕は「修繕工事のうち大規模な工事内容で工事費用が高額で長期間にわたる工事であること」と国土交通省のガイドラインで定義されていますが、それ以外にも不具合が生じたときにも補修や小修繕をおこなうこともあります。
よくメンテナンスという言葉を耳にしますが、メンテナンスは「維持・保守・管理・保全」といった意味があります。マンションの修繕はマンションのメンテナンスを目的とした工事であると同時に、マンションの資産価値を下げないための工事でもあります。
なお、マンションの大規模修繕については、下記コラムでも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
「マンションの大規模修繕とは?~工事に必要な基礎知識~」(https://www.t-works1.com/column/column01/)
●マンションの改修とは
一方でマンションの改修工事とは、簡単に言うと「マンションをグレードアップ」させるためにおこなう工事のこと。修繕工事がもともとマンションに備わっている性能や機能、美観などを維持する工事であるのに対して、改修工事はマンションに新たな性能や機能を加えて、資産価値を向上させるためにおこないます。
老朽化したマンションの建て替えとは異なり、いまの建物のまま一部を改修することによって、いまの時代に求められる機能や性能を備えた居住環境へのグレードアップが可能になります。
改修とほぼ同義で「リフォーム」という言い方がありますが、一般住宅やマンション室内など小さな規模の工事のことはリフォーム工事、マンションやオフィス、施設などの大きな工事を改修工事と表現することが多いです。
とくに高経年化したマンションは現代では当たり前の設備がなかったり、生活するうえで不便を感じたりするケースが少なくありません。
国土交通省の「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」では、高経年マンションにありがちな「住戸面積の狭さ」「設備の旧式化」「バリアフリーへの未対応」「防犯性能の低さ」などを例に挙げています。これらは時代に合わない設備・機能とみなされ、資産価値を低下させる原因になりかねません。
住戸内部の主な課題
- 住戸面積の狭隘(きょうあい)化
住戸面積が狭く生活しにくい、住戸内に洗濯機の置場がない - 断熱性能の低下
結露しやすい、省エネ対応のインフラがない - 設備の旧式化・陳腐化
建材や給排水システムなどの機器の性能が旧式で老朽化、電気容量が不足
建物共用部分の主な課題
- バリアフリーではない
段差があるなどバリアフリー化されていない、手すりがない、エレベーターがない - 防犯性能が低い
オートロックではない、照明が薄暗い、防犯カメラが設置されていない - エントランスの陳腐化
内装仕上げ材、照明器具、集合郵便受け・掲示板等の金物類の性能、デザイン等のエントランスホールの雰囲気が陳腐化している 等 - 共用スペースの機能の陳腐化
管理事務所、宅配ロッカー・トランクルーム、共用倉庫、ラウンジ、プレイルーム、宿泊室等の機能がない 等 - 外観イメージの陳腐化
仕上げ材、デザイン等の外観の雰囲気が陳腐化している 等
敷地内の主な課題
- バリアフリーでない
段差がある、手すりがない 等 - 敷地内のイメージの陳腐化
車道・歩道・広場等の舗装材料のデザイン・性能、屋外灯や外構工作物等のデザインが陳腐化している、緑化環境が整備されていない 等 - 附属・共用施設等が整備されていない
集会所の機能が十分でない、駐車場・駐輪場・バイク置場等が不足している 等
※出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(令和3年9月改訂)」
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001374063.pdf)
このマニュアルでは「陳腐化」という表現が使われていますが、要するに現代のライフスタイルや居住者のニーズに応えていない設備・機能を指しています。たとえばインターネット回線が古くて使えない、防犯カメラが設置されていない、エレベーターが古く災害時の安全性が不十分、などが代表例です。
ほかにも、宅配ボックスを備えていない、インターフォンにモニターがない、バリアフリー化されていないマンションは、最新設備を導入している物件に比べると、資産価値が大きく下がってしまいます。
では実際にどのような改修工事を実施すればマンションをグレードアップさせることができるのか、改修工事をおこなうベストなタイミングや工事のポイントについても見ていきましょう。
マンション修繕ではなく改修をすべきタイミングとポイント
近年マンションの大規模修繕を計画通りに進めていると仮定した場合、新築時と同じような性能や機能は維持されているはずです。
まず国土交通省のマニュアルの図を見て「修繕」と「改修(改良)」のあり方を整理したうえで、修繕と改修(改良)、築年数と各工事の意義を理解しましょう。
※引用元:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(令和3年9月改訂)第1章 マンション管理の基本と改修による再生の重要性 1.3 改修の重要性(■計画修繕と改修の重要性)」
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001374063.pdf)
上の図からわかるように、大規模修繕と改修はバラバラに切り離されるものではなく、現在のマンションの性能を維持するための修繕の上に、性能や機能などを改良した改修工事をしてより安全に、快適に生活できるマンションにしていく目的で行われる工事です。
では、マンションをグレードアップさせるための改修はどのタイミングですればよいのでしょうか。
●改修を検討すべきタイミング
マンションの大規模修繕は12~15年周期とされていますが、マンションの改修工事はもともとのマンションがどのような機能を備えているかによって異なりますが、ここではおおよその目安を見ていきたいと思います。
新築時から10年程度
築後10年程度で改修の候補になるのが、マンションの壁紙やガス給湯器などです。とくに給湯器の耐用年数は10年程度に設定しているメーカーが多いので、IHコンロもガスコンロも交換を検討するタイミングです。
近年では省エネ仕様の給湯システムや蓄電システムなどもありますので、マンション住民の意見をアンケート集計するなどして要望を聞き取り、いつまでにどのような改修工事をするか決めていくようにします。
新築時から10~20年程度
近年では省エネ仕様の中古マンションを販売する場合はフルリノベーションをおこなうことが多いですが、住民が住み続けて10数年以上経過すると、キッチンやトイレ、浴室、洗濯機置き場などの水回りになんらかの問題が生じるケースが多くなります。
水回りの劣化を放置したままにすると大規模な漏水などのリスクもありますので、改良工事を検討するタイミングになってきます。またフローリングやタイルなどの室内の床などに劣化が目立つような場合も、改修工事を検討します。
ただしマンション住民の専有部分である室内の工事に関しては、管理組合でルールを定めるなどして管理していく必要があります。
玄関ドアやベランダなども劣化や故障で修理が必要になることが多いですが、玄関ドアもベランダも共用設備になるので、大規模修繕工事のタイミングと調整しながら、まとめて対応するのが一般的です。
新築時から20~30年程度
近年の新築マンションでは省エネに配慮したインフラ設備や最新の防犯設備、共用設備のバリアフリー化などが進んでいますが、築30年以上が経過している高経年マンションには、そのような設備や機能がないケースが多いといえます。
30年もの年月が経過したマンションの改修工事は、ベランダや窓、玄関扉を含め屋上や駐車場など、大規模な改修工事をおこなうタイミングになります。
この場合も、大規模修繕工事の修繕箇所と併せ、マンション住民の生活面の負担なども勘案したうえで改修工事のプランを提示して、住民の理解と協力を得ながら改修工事を進めていくようにしましょう。
●マンションの改修工事の事例とチェックすべきポイント
近年の新築マンションはユニバーサルデザインや共有設備の充実など、暮らしやすさや安全性、多様性を重視したコンセプトを売りにしている物件が増えてきています。
それでは大規模修繕にプラスしてマンションの性能や機能を総合的に改良し、マンションの質を高める改修工事にはどのようなものがあるのか、国交省のマニュアルを参照しながら説明していきましょう。
耐震性能の改善
大地震などの災害がより現実味を帯びる昨今、マンションの耐震性能を総合的に改善する改修工事の重要度は、今後ますます高まっていきます。
建物の耐震診断をおこなった結果耐震性能の不足が判明したら、耐震補強工事を行わねばなりません。
また建物躯体の耐震補強だけでなく、エレベーターや避難階段、バルコニー、共用廊下など安全な避難導線が確保できていない場合は、住民の命を守る設備となるよう改修します。
同時に、災害に見舞われた際に水や電気などのライフラインが停止した場合を想定した準備をしておくことも重要です。
バリアフリー性能の向上
高経年マンションであればあるほど、居住者の高齢化も進んでいると考えられますが、当時ほとんどのマンションにはバリアフリー性能はありませんでした。段差があったり、開けにくい扉だったりする場合、改善が必要になります。
手すりの設置や車いすでも移動しやすいスロープの設置など、マンションの建物内や敷地内を安全かつスムーズに動けるようにバリアフリー性能の高いマンションに改修します。
防犯(セキュリティー)性能の強化
防犯に関しても、高経年マンションには多くの問題があります。容易に建物内に侵入できてしまうマンションは、防犯カメラの設置だけでなくオートロックやエントランスホールの二重ドア、敷地内への人感センサー設置、住戸窓の防犯ガラス化や駐車場のセキュリティ向上などの改善が必要です。
防犯性能においてはマンションおよび敷地全体の防犯性能を上げる改修をしないと意味がないため、周辺の建物や立地環境も含めリスクを洗い出し、適切な防犯設備を導入します。
省エネ・エコロジー対応
世の中が省エネ、脱炭素を当たり前のように語るようになってから、総年月は経っていません。しかし、築年数が古いマンションの場合は、実現可能な範囲で省エネ性能を上げる改修をします。
大規模修繕のタイミングなどで外壁の外断熱化やサッシの二重化などの改修工事をおこない、太陽電池による電気の供給をおこなうなど省エネ・エコロジー性能を改善する改修工事を実施します。
共用スペースのリニューアル
現代のニーズに合わせ、宅配ボックスの設置や共用倉庫の提供、共同ラウンジの設営やキッズスペースの提供など、マンション住民やこれから中古マンションの購入を検討している人に魅力を感じてもらえるような改修工事をおこないます。
住戸面積が狭くファミリー向けに売りにくい場合などは、二戸一戸化にリフォームをおこなう場合もあります。そのほか、エントランスホールをトレンドのデザインや建材を採用して改修することで、マンションのグレードアップを図ります。
外観のリニューアル
マンションの居住スペースだけでなく、屋外環境の改修も検討材料のひとつです。たとえば駐車場や広場、敷地内の歩道などのデザインや建材を見直すことでマンション全体の外観をグレードアップさせ、より使いやすく生活しやすいマンションに改良していくことができます。
デザインだけでなく、バリアフリー性を高め住民が安心して暮らせる、ファミリー層が敷地内で小さな子どもを安全に遊ばせることができるといった要素も、マンションの資産価値を上げる効果があります。
このほかにも電気自動車用の給電システムを導入する、バイク置き場や自転車置き場を整備する、敷地内の緑化や四季の花々を植える、ごみ置き場を整備するなど、マンション住民のニースやライフスタイルにマッチした改良工事をプランニングしてみてはいかがでしょうか。
※出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(令和3年9月改訂)」
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001374063.pdf)
マンションの改修工事をするメリット
マンションを改修する大きなメリットは、「中古マンションの資産価値を引き上げる」ことです。経年劣化が避けられない中古マンションと最新の性能とトレンドを取り入れた新築マンションを比較されてしまうと、どうしても中古マンションが不利になってしまいます。
国土交通省の改修マニュアルに、修繕工事と改修(改良)工事の基本的な考え方がわかりやすく図にまとめられています。
※引用元:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(令和3年9月改訂)第1章 マンション管理の基本と改修による再生の重要性 1.4 改修工事の基本的考え方(■改良工事の基本的な考え方)」
(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001374063.pdf)
もともとのマンションに備わっている初期性能を大規模修繕などの工事で維持・回復させて、さらに改良工事でマンションの性能を向上させる改良工事をおこなって性能水準を高めていくという考え方です。
マンションの性能が向上して資産価値が上がれば、中古マンションを販売する場合にも賃貸の入居者を募集する場合にもメリットがあります。
マンションの改修工事をするデメリット
マンションの改修工事をするデメリットでわかりやすいのは、なんといっても「工事費用が高くなる」ことです。
マンションの大規模修繕は修繕積立金などを原資におこないますが、はじめから改良工事を組み込んでいない場合は、工事費用の見直しが不可欠になります。そのため改良のための工事であっても、すべてを実施する費用が捻出できるかが課題です。
自治体によって改修工事費用の補助金制度がある場合もありますが、修繕費用にプラスして改修工事をおこなえるかどうかの判断は、専門家によるシミュレーションなどもおこない慎重な判断が必要です。
さらにいくら資産価値の向上が見込めても、区分所有しているマンションの住民の負担となるものですので、十分な議論を重ねて理解が得られてからでないと、改修工事に踏み切ることはできません。
その工事に必要な費用の見積もりや積立金の見直し案などもとともに、管理組合や修繕委員会で検討した修繕プランをマンション住民に提案し、コンセンサスが得られてから実施することが重要です。
今回は、大規模修繕とマンションの改修工事の違いや基本的な考え方について解説しました。ボトルネックとなるのは工事費用の捻出になりますが、マンションの資産価値に無関心な住民はいないと思いますので、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。マンションの改修や修繕を検討されている方は、ぜひ弊社にご相談ください。