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2025.3.31

修繕積立金が足りないときにマンション管理組合が今すぐできる対策とは

国土交通省が発表している「令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状」によれば、長期修繕計画で算出した積立金に対して、36.6%のマンションが計画時に比べ実際の積立額が不足していることがわかりました。

下記グラフを見ると、積立金の不足額が20%を超えるマンションが全体の11.7%。
たとえば大規模修繕の費用総額が1億円と仮定すると、2,000万円以上も修繕費用が不足してしまうことになります。
これはけっして他人事ではありません。

引用元:国土交通省 令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状「2.マンション管理の状況(5)長期修繕計画上と実際の修繕積立金積立額の差〔管32⑥(4)〕【PDF】

本記事では、マンションの修繕積立金が不足する原因をわかりやすく整理しながら、管理組合や修繕委員会がどのような対策をとるべきか、具体的に解説していきます。

修繕積立金が足りなくなる原因

マンションの修繕積立金が足りなくなる原因にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは代表的なものを3つ、紹介していきます。

① 新築時の修繕積立金の金額設定が低すぎる

マンションを新築する際に定めた修繕積立金の金額設定が低すぎたことが原因で、実際に大規模修繕工事にかかる費用を積み立てることができないことがあります。

新築マンション購入時に修繕積立金を安くすることによって、入居者の負担を少なく見せたい、という売り手の思惑が影響して、積立金の金額が実情に見合わないものになっている可能性があります。

国土交通省が公表している「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」には、修繕積立金の目安を算出する算出式が載っていますが、地上階数や建築延床面積、機械式駐車場の有無などにより、月額の専有面積当たりの修繕積立金額が変動します。

大規模修繕工事は12~15年周期で行われますが、長期修繕計画は最初に立てて終わりではなく、一定期間ごとに見直していくことを前提としてとしています。
したがってそのタイミングで当然、修繕積立金の金額も見直さなければなりません。

マンションによって修繕費用の総額は異なりますが、修繕積立金を安く見積もれば見積もるほど、費用が足らなくなるという事態に陥ります。

※参照元:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月 令和6年6月改定)」【PDF】

② 段階増額積立方式の値上げがうまく進まない

段階増額方式は5年ごとなど期間を決めて増額していく方式の修繕積立金です。初期費用を抑えることができるメリットがある反面、居住者の年齢が上がり収入が減るのに積立金の月額が上がるというねじれ構造が生じてしまいます。

居住者が積立金の値上げに反対して増額することができず、積立金が低額のまま当座しのぎとなってしまうケースも多く、結果的に大規模修繕工事のための費用が足らなくなってしまうのです。

マンションの高経年化と居住者の高齢化という2つの老いが、修繕積立金の運用を難しいものにしているという現実があり、修繕積立金が足らなくなる原因にもなっています。

国土交通省の調査によれば、段階増額積立方式で初期額が約7,000円だったのに、長期修繕計画内の最終額が約28,000円。なんと約4倍にも膨れ上がってしまうケースがあることがわかっています。

※参照元:国土交通省「段階増額積立方式を採用しているマンションは早めに均等積立方式に切り替えよう」【PDF】

③ 修繕費用の高騰

10年前、20年前に立てられた長期修繕計画を見直していない場合、現在の社会情勢に合致していない可能性があります。2021年後半から始まったとされる物価高の影響は建築業に大きな影響を与えています。

たとえば輸入物価の上昇による原材料の高騰、電気などのエネルギー代の上昇、物流コストの上昇、人件費の高騰など、複数の要因が重なって、大規模修繕工事にかかる費用も大幅に増加しています。

とくに建築業界では人手不足の深刻化が修繕工事の費用高騰に直結しており、今後値下がりする可能性は考えにくいと言えます。

さらに高経年マンションの劣化や老朽化が進んでしまうと、初期の修繕計画にはない大規模な修繕工事が必要になります。したがって、実際に工事費用を見積もってみると、想定していた金額よりもかなりかさんでしまうというわけです。

修繕積立金が足りない場合の対策

① 修繕積立金の値上げ

積立金が足りないなら、月々徴収する積立金を増額すれば、数年後の大規模修繕の費用が足らなくなるという事態は避けられます。しかし、この増額は居住者の理解を得ないことには実現できません。

修繕積立金の値上げの数的根拠、すなわち物価の上昇や資材の高騰、修繕工事の業者に支払う費用の増加など、初期計画時の見積額と将来必要な積立金の差額がどれくらいあるのか、居住者に伝えて納得してもらわなければなりません。

ただし、急激な値上げは居住者からの反発を招きますので、段階的な引き上げのシミュレーションもあわせて提示することが理想です。

専門家による見解も交え修繕委員会や管理組合で十分議論を重ねたうえで、修繕積立金の値上げや修繕計画の見直しに関する居住者向け説明会を開催し、ていねいに説明して理解を得ることが重要です。

② 修繕積立一時金の徴収

修繕積立金の値上げをするのではなく、大規模修繕工事や耐震化工事など大掛かりな工事にかかる費用の不足額を算出し、修繕積立一時金として徴収するという方法もあります。

修繕積立金が足りないときなどに臨時で集めるかたちになりますが、その金額やタイミング、回数は個々のマンションによって異なります。管理組合の財政事情が厳しければ、一時金の金額も上がりますし、それほど苦しくなければ数万円程度で大丈夫な場合もあります。

ただし、すでに修繕積立金を徴収されているうえに一時金を支払うのは、居住者にとって大きな負担になりかねません。さらに大規模修繕など工事の規模が大きかったり、高経年マンションで修理しなければならない場所がたくさんあったりすると、すぐには払えないほどの金額になる可能性もあります。

そのため、工事の直近になって徴収するのではなく、支払う側の負担をできるだけ軽減する工夫をしなければなりません。
たとえば段階的に集める、もしくは分割払いで支払えるようにするといった方法があります。

③ 金融機関からの借入

修繕積立金の値上げや積立一時金の徴収が難しい場合は、金融機関からの借入も検討してみてください。ローンを組んでマンションのリフォーム・大規模修繕の費用を借りることによって、不足している費用を補うことができますし、仮に工事費用がギリギリ足りている場合でも、ローンを活用して手元にお金を残し将来に備えることができます。

たとえば住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」を例にとると、全期間固定金利で担保は必要なく、条件をクリアすれば融資金利を引き下げてくれる特典もあります。

※参照元:住宅金融支援機構「管理組合のための大規模修繕ローン マンション共用部分リフォーム融資」【PDF】

ただ借入金には金利も発生するため、返済期間や返済金額など無理なく借金を返済できるかどうか、専門家の意見も聞いて慎重に判断することが重要です。

もちろん、最終的には返済しなければならないので、管理組合が主体となって総会などに働きかけ、いくら融資を受けるのか、どのような返済計画なのか承認を得たうえで、ローンを組むようにします。

最終的には修繕積立金の値上げや積立一時金の徴収に移行しなければならないかもしれませんが、一度融資窓口に相談してみるのもひとつの方法です。

なお、「大規模修繕」を延期するという方法もありますが、マンションの劣化や故障などをそのまま放置することは、マンションの寿命を縮めることにつながりますので、安易な工事延期はおすすめできません。

マンションの修繕工事を検討している方は
ぜひ専門家にご相談を

将来的な修繕積立金不足を防ぐためにできること

ここまで修繕積立金が足らなくなる原因や対策について説明してきましたが、将来的に修繕積立金が不足しないようにできることについても解説しておきましょう。

① 長期修繕計画の定期的な見直し

修繕積立金が足らなくなる大きな原因のひとつとして挙げられるのが、マンション新築時に立てた長期修繕計画が現在の状況とかけ離れてしまっているケース。

激しい気候変動の影響で劣化や故障が想定よりも早く進んでしまったり、居住者の高齢化で修繕積立金などの滞納者が増えてしまったりすることがあります。

初期の修繕積立金の見積額と、現時点で見積もった金額に大きな差があるのであれば、すぐにでも専門家に依頼して長期修繕計画の見直しを進めるべきです。

参考までに、国土交通省が公開した令和5年度の調査結果で「5年ごとを目安に定期的に見直している」マンションが全体の63.2%で、そのほかは「修繕工事実施直前に見直しを行っている」が9.4%、「修繕工事実施直後に見直しを行っている」が9.9%となっています。

長期修繕計画を見直していないのは全体の3.7%と少数派ですが、管理組合や修繕委員会でこのような調査結果も共有しながら見直しを検討していくようにしましょう。

※参照元:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状」【PDF】

なお、大規模修繕工事を行うタイミングについては、下記コラムでも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
大規模修繕はいつがベスト?工事の周期と劣化の関係とは

② 均等積立方式への移行

国土交通省の「令和5年度マンション総合調査の結果について」のレポートを見ると、修繕積立金の積み立て方式は2015年以降に建てられたマンションは80%以上が段階増額積立方式を採用していることがわかりました。

マンション価格が高騰する中で、少しでも購入時の費用を安く見せたいというデベロッパー側の思惑も影響していると思いますが、購入を検討している人にとっても、「現時点の金額が低い」ことに魅力を感じる人が多い、というのも事実です。

ですが、国土交通省は段階増額積立方式を採用しているマンションの管理組合などに向け、早めに「均等積立方式」に切り替えるよう、呼びかけています。
なぜなら、段階増額積立方式ではうまく増額が進まず、大規模修繕費用が大幅に不足する事態に陥りかねないからです。

居住者に経済的余裕があるうちに一定の積立金を支払ってもらうことで、将来的に必要になる大規模修繕工事や耐震補強工事に備えることができるという点で、均等積立方式のほうが費用不足に陥る可能性が低いと考えられているためです。

均等積立方式であれば値上げの必要がなく、積立一時金の徴収や借入のリスクも避けられるというのも重要なポイントです。

※参照元:国土交通省「段階増額積立方式を採用しているマンションは早めに均等積立方式に切り替えよう!」【PDF】

修繕積立金の適正管理で安心できるマンション運営を

修繕積立金の不足により、耐震改修や大規模修繕工事ができないというマンションが増えている事実がいま、社会問題化しています。投資目的でタワマンを購入する人は別として、マンションを終の棲家として考えて購入した人は、マンションとともに「高齢化」していきます。

居住者の60%以上が終の棲家と考えているといわれるマンションの長寿命化を図るためにも、修繕積立金を着実に積み上げて修繕や改修、補強工事の費用をねん出していけるように計画を立てて運用をすることが、管理組合や修繕委員会にとって理想のかたちであることは間違いありません。

※参照元:令和5年度マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状【PDF】

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